脳は、肉体をコントロールする中枢部であり、何億もの異なる細胞と数兆にものぼるニューロンで構成されており、ニューロンの数は、実に世界人口の数百倍にも達します。しかし、30才を過ぎるころから私達人間の脳細胞は減少し始めるといわれており、この振幅は歳を経る毎に大きくなります。呆けあるいは健忘症は、その結果生じる恐るべき結果であり、直接の原因は、年齢とともに起こる脳を巡る血流障害あるいはその低下、ニューロン及びシナプスの損傷によって起こります。
この脳機能の低下が不可避なものであったとしても、脳細胞の損耗原因を修復してくれる栄養素を補給することによって、記憶・集中力を取り戻すことはできます。
下記に記憶と集中力の増進を助ける栄養成分を取り上げてゆきます。
■■アセチルLカルニチン
L−カルニチンが、体内で生成・蓄積されるアミノ酸に似た栄養素であり、主に脂肪を筋肉細胞へと運び、その燃焼を助ける役割を持つことから、ダイエットを助けるサプリメントとして注目を集めている素材ですが、カルニチンから派生して生じるアセチルL−カルニチン(ALC)は、脳を正常な働きを保つ重要な役割を併せ持ちます。ALCは血液脳関門を容易に通過できる形態のカルニチンであり、アセチルコリン(脳機能を活性化させる脳内伝達物質)に非常に近い分子構造を有します。ポーラ・ガイノール博士の報告によれば、ALCはアセチル・グループの働きを助け、アセチルコリンの生産に必要な酵素を活発にすることによって、アセチルコリンそのものを生成する働きがあるそうです。
また、彼女は、ALCを用いた臨床実験において、アルツハイマー症を既往に持つ130人の患者を対象にALCを1日2g投与したグループと偽薬を投与したグループとに分け、1年間投与した結果、偽薬グループに比較してALC投与グループが、記憶障害と認識行動の両面においてその低下を遅らせることができると報告しています。
アルツハイマー症には、脳内のアセチルコリン濃度が著しく減少することが伴います。ALCがどのようにしてアルツハイマー症の改善に働くかのメカニズムははっきりとは分かっていませんが、化学者達はこの栄養素のコリン活性によるものではないかと推察しています。
■■ビンカミン
■■ビンポセチン
ビンカミンとビンポセチンもまた、脳に良い働きをする栄養補助食品として、アメリカで入手可能です。ビンカミンはツルニチニチソウ(学名Vinca minor)という植物から抽出される成分で、脳内の虚血を防ぎ、血流改善により脳内の酸素供給量を増量させる作用を持ちます。一方のビンポセチンは、中央アフリカ由来のビンカミン派生種で脳内血液循環を活発にし、脳細胞中のATP(アデノシン・トリホスファート)生成を促し、神経細胞によるグルコースと酸素の取り込みを活発にすることによって、脳内新陳代謝を容易にする作用があり、このことが記憶力を増強することに繋がります。
ビンポセチンは、ヨーロッパでは度々脳内血流障害から生じる病症の治療薬として使用されています。たとえば、記憶障害や癲癇、失語症、その他虚血を起因とするさまざまな機能障害に成果を上げています。
ビンポセチンは、実際既に世界17カ国以上で医薬品として発売されており、30000症例を越える臨床例があります。脳卒中から脳不全までのさまざまな神経伝達障害を持つ882人の患者を対象にした実験では、62%の者に著しい改善が見られたとの報告もあります。
■■ホスファジル・セリン
ホスファジル・セリン(PS)は、既にヨーロッパでは、アルツハイマー症ならびにパーキンソン氏病の治療薬として処方されてきた歴史を持ちます。初期においては牛の皮質より抽出された物を使用していましたが、メラトニン等と同じく狂牛病の感染リスクを避けるため、現在では大豆抽出のものが市場の大半を占めています。PSは、本来すべての細胞内に備わっており、特に脳細胞に多く存在します。細胞内においての役割は、細胞の構成要素の一部を形成することと同時に他の細胞との情報伝達を繋ぐ電信柱の働きをします。この事が、脳細胞において、認識理解力、記憶想起能力にPSが働く理由であると思われます。
1日100mgのPS投与で認識力、記憶力、集中力に著しい改善が見られたという臨床報告データもあります。
■■ヒュペリジンA(HupA)
ヒュペリジンAは、中国原産の植物ヒカゲノカズラ(学名Huperizaserrata)に含まれる成分で、脳内ではアセチルコリンステラーゼ酵素(記憶と知覚機能に関わる脳内伝達物質アセチルコリンを吸収分解させる酵素)の阻害薬として働きます。
ジョージタウン大学のアラン・コジコワスキー教授は、1989年に最初にヒュペルジンAの抽出生成に成功した人物で、彼の近年の研究で痴呆症や記憶減退の治療薬としてこのハーブ抽出成分が有効であることを発表しています。『アルツハイマー症治療では、過度のグルタメートから生じるある種の毒性を発現することがある。HupAは、そのグルタメートの毒性から神経細胞を守る働きをする。』
現在、コジコワスキー教授は、アメリカ・アーミーからこのヒュペリジンAの分子構造の解明において助成金を得ていますが、それは神経ガス吸引後の治療にHupAの効果が期待されているからです。
HupAもまた、サプリメントとして販売されることが許可されていますが、HupAの脳細胞防御特性に加えて、記憶減退を妨げる特定因子が解明され、さらに脳への影響速度を調整する分子組替えに成功すれば、将来的にはアルツハイマー治療医薬品として完成されるでしょう。
■「アセチルLカルニチン」
■「ビンカミン」
■「ビンポセチン」
■「ホスファジル・セリン」
■「ヒューペリジンA(ヒカゲノカズラ)」
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